御社では、建設分野の1号特定技能外国人を雇用しておられますか。
もしかすると、特定技能外国人から「年金の脱退一時金をもらうために母国へ帰国したい」と急に言われ、驚かれたかもしれません。
年金の脱退一時金制度は、日本人には全く関係がないため、事情を理解するのは容易ではありません。
また、特定技能外国人の要望に応えてあげたいと思うものの、どのような手続きが必要か全体像がなかなか掴めないかもしれません。
それで、この記事では、建設分野の特定技能外国人を雇用している企業様の顧問をしている行政書士が、①なぜ特定技能外国人は脱退一時金をもらいたいと言ってくるのか、②どんな手続きが必要かなどについて、解説いたします。
なぜ特定技能外国人は脱退一時金をもらいたいと言ってくるのか
年金の脱退一時金とは、外国人が日本での就労を終えて母国へ帰国した場合に、日本で納めていた年金の一部を返還してもらえる制度です。
返還される脱退一時金は、納付していた期間に応じて増えていきますが、5年(60ヵ月)で上限に達し、5年以降は掛け捨てになってしまいます。(下表をご参照ください。)
脱退一時金は、かなりの額になるため、外国人にとって無視できることではありません。
例えば、5年間(技能実習で3年間、特定技能で2年間など)、日本の会社で働き、厚生年金に加入していた外国人の場合、5年間の平均標準報酬額が20万円(年収240万円)と仮定すると、支給率5.5を掛けた金額、すなわち110万円が戻ってくる計算になります。3年間の場合、支給率が2.7となり、54万円になります。
※約20%の源泉徴収がされるため、実際の手取りは8割程度になります。税務署に確定申告すれば、源泉徴収された金額を還付してもらうことができます。
これは、日本人でも無視できる金額ではありませんが、日本に出稼ぎに来ており、母国の物価水準が染み付いている外国人にとってはかなりの大金です。
特に、特定技能で2年が経過する外国人は、技能実習の3年と合わせて5年になることが多いため、「脱退一時金をもらうために一時帰国したい」と言って来ることが少なくありません。
では、どうすれば外国人は脱退一時金を受け取れるのでしょうか。
外国人が脱退一時金を受け取るための主な要件は以下の通りです。
- 会社を退職し、年金の被保険者でなくなっていること
- 日本国内に住所を有していないこと
- 年金加入期間が6か月以上、10年未満であること
そのため、会社と特定技能外国人の双方がずっと雇用関係を望んでいる場合でも、外国人が脱退一時金の受け取りを希望するなら、少なくとも5年毎に、外国人に対して、退職手続き+母国への一時帰国+再雇用手続きをする必要があります。
加えて、特定技能外国人であれば入管への各種届出、さらに建設分野の特定技能であれば計画認定を再度受ける必要があり、とても複雑な手続きになります。
この記事では、建設分野の1号特定技能外国人が、脱退一時金を受け取るために、会社を退職し、母国へ一時帰国した後、脱退一時金の受け取りを経て、再度来日し、同じ会社に再雇用されるまでの手続きについてまとめています。
【ポイント】
年金の脱退一時金を請求せず、年金を10年間納付し続けると、老齢年金の受給資格を満たします。そのため、老後のことを考えて脱退一時金を請求しないという決定をする外国人もいますので、外国人本人によく確認しておくことが大切です。 なお、企業側に対し、外国人が年金の脱退一時金を受け取るようにする義務が課されいる訳ではありません。脱退一時金を受け取りたいという特定技能外国人の要望に応じるかどうかは各企業の判断です。 |
建設分野の1号特定技能外国人の場合が脱退一時金をもらうための手続き
ここからは、具体的に、建設分野の1号特定技能外国人の場合が脱退一時金をもらうためにどんな手続きをする必要があるのか、見ていきましょう。
①退職前、②退職後、③出国後、④再来日後の4つの時期にするべきことについて、分けて解説いたします。
退職前
- 事前によく話し合い、いつ退職し、いつからいつまで母国に帰国し、いつ日本に帰国するかを決めておく
- 航空チケットの手配
- (会社のルールに従い)退職(願)届を書いてもらう
- (退職日の申し出があった日から14日以内に)「受入れ困難に係る届出」を入管に提出
【ポイント】
特定技能外国人が退職日以降に働くことは不法就労にあたります。外国人に帰国日直前まで働いてもらうため、退職日が帰国日直前になることが少なくありません。そして、退職後は下記のような幾つもの手続きがあります。そのため、入念な計画を練っておくことが欠かせません。 |
退職後
日本人と同様の退職手続き
- (会社のルールに従い)退職証明書の発行
- 社会保険(健康保険・厚生年金保険)資格喪失の手続き
- 雇用保険資格喪失の手続き
※その際に、外国人雇用状況の届出(離職の届出)も併せて行います。
特定技能外国人を雇用する会社が行なう入管への届出
- 「特定技能雇用契約(終了)に係る届出」を入管に提出
- (一時帰国により、登録支援機関との支援委託契約が終了する場合)「支援委託契約(終了)に係る届出」を入管に提出
※特定技能外国人の退職によっても契約が終了しない場合は、この届出は不要です。
特定技能外国人本人が行なう入管への届出
- 「所属(契約)機関に関する届出(契約終了)」を入管に提出
転出届を市役所に提出
転出届を市役所に提出します。
脱退一時金の請求
特定技能外国人が、厚生年金保険の被保険者でなくなり、転出届を出したなら、脱退一時金の請求を行ないます。
請求先は、日本年金機構本部(または、各共済組合等)で、郵送などで請求することができます。
脱退一時金を請求するための主な提出資料は以下の通りです。
- 脱退一時金請求書 ※各言語が併記されたものが準備されています。
- パスポート(旅券)の写し(氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページ)
- 受取先金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号、請求者本人の口座名義であることを確認できる書類(金融機関が発行した証明書等。または請求書の「銀行の証明」欄に銀行の証明でも可)
- 基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類
- 代理人が請求手続きを行う場合は「委任状」
【ポイント】
脱退一時金の請求は、母国に戻らずとも、日本に住所が無くなった時点で請求できます。そのため、日本にいる間に脱退一時金の請求を済ませてしまうことをお勧めいたします。 なお、脱退一時金は、本人名義であれば、日本の銀行でも母国の銀行でも受け取れますが、ゆうちょ銀行では脱退一時金を受け取れないようですのでご注意ください。 |
特定技能外国人の出国と再来日
出国の方法
特定技能外国人は、みなし再入国許可で出国することを強くお勧めいたします。
そうすることで、在留資格「特定技能1号」を保持し続けることができ、再来日後も、在留資格申請をすることなく(ただし、入管への届出は必要です。)、働くことができます。
【みなし再入国許可とは】
みなし再入国許可とは、出国の日から1年以内に再入国する場合には、原則として再入国の許可が不要となる制度です。 みなし再入国許可の有効期限は、出国の日から1年間ですが、それよりも前に在留期限が来る場合には、在留期限までです。 ※単純出国する方法もありますが、そうすると、出国時に在留カードを返納し、再入国するには在留資格認定証明書の交付を含め、一から手続きをやり直すことになってしまいますので、承知のこととは思いますが、そうしないよう外国人本人に念押ししておくとよいかと思います。 |
みなし再入国許可で出国・再来日する場合、パスポートだけでなく、在留カードも必要です。
また、空港に置いてある再入国EDカードの
- 出国予定期間:1年以内
- 1.一時的な出国であり、再入国する予定です。
にチェックして、入国審査官に提示する必要があります。(下の画像をご参照ください。)
その際、みなし再入国許可による出国を希望しており、脱退一時金をもらうために帰国する旨を伝えるようにすると安心です。
そうすれば、みなし再入国許可により、再来日できます。
再雇用申請
1号特定技能外国人が、一旦退職・出国し、再入国後に退職前と同じ会社に再雇用され、雇用条件に変更がなく就労する場合(※年金脱退一時金の請求のための手続きは、通常、この場合に該当します。)、国交省の外国人就労管理システムで「再雇用申請」を行い、「退職日」、「再雇用予定日」を入力して認定を受けます。
この再雇用申請は、手続きの簡素化を図るために、2023年11月から導入されています。
雇用条件に変更がある場合は、再雇用申請を使うことができず、新たな計画認定が必要です。
なお、対象の外国人を受入れてから1年以上経過し、定期昇給によって基本賃金が上昇している場合は、元の契約通りに昇給した結果ですので、契約の変更にはあたりません。「雇用契約の内容に変更がない」として再雇用申請の利用が可能です。
この申請は、特定技能外国人が日本を出国した後、すぐに行なう必要があります。通常、約2週間から1か月で認定が下ります。
再来日後
住民登録
再来日後、速やかに、市役所で住民登録を行ないます。
建設分野の特定技能外国人特有の手続き
- (再入国し、就労再開後一ヶ月以内)受入報告
【ポイント】
建設分野の特定技能外国人の場合、再雇用申請または建設特定技能受入計画の認定がないと、就労を開始できませんのでご注意ください。 |
日本人と同様の入社手続き
- 社会保険(健康保険・厚生年金保険)資格取得の手続き
- 雇用保険資格取得の手続き
※その際に、外国人雇用状況の届出(雇入れの届出)も併せて行います。 - その他、会社のルールに従った手続き
特定技能外国人を雇用する会社が行なう入管への届出
雇用開始から14日以内に、以下の届出を入管に提出します。
- 「特定技能雇用契約(新たな雇用契約締結)に係る届出」を入管に提出
※建設分野の場合、この届出の際に、建設特定技能受入計画認定証の写しを添付する必要があります。 - (登録支援機関に支援を委託する場合)「支援委託契約(締結)に係る届出」を入管に提出
特定技能外国人本人が行なう入管への届出
- 「所属(契約)機関に関する届出(新たな契約締結)」を入管に提出
以上で、建設分野の1号特定技能外国人が脱退一時金をもらうための手続きは完了です。
まとめ
いかがでしたか。
建設分野の1号特定技能外国人が脱退一時金をもらうには、会社にかなりの負担がかかることがお分かりいただけたかと思います。
しかし、返還される脱退一時金は高額で、特定技能外国人にはとても重要な問題です。
当事務所では、会社様の負担を最小限につつ、特定技能外国人が脱退一時金を受け取れるように、手続きをサポートしております。
北陸地方の建設分野の1号特定技能外国人を雇用している企業様の顧問を多数務めさせていただいておりますので、お困りの企業様は、どうぞ安心してお問い合わせください。